最高裁判所第二小法廷 昭和42年(オ)1108号 判決 1969年10月31日
上告人
○井○子
代理人
河合伸一
河合徹子
被上告人
○井○男
代理人
金子新一
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告代理人河合伸一、同河合徹子の上告理由について。
所論は、民法七四二条一号にいう「当事者間に婚姻をする意思がないとき」とは、律法上の夫婦関係を当事者間に設定しようとする意思がない場合と解すべきである旨主張する。
しかし、右にいう「当事者間に婚姻をする意思がないとき」とは、当事者間に真に社会観念上夫婦であると認められる関係の設定を欲する効果意思を有しない場合を指すべきであり、したがつてたとえ婚姻の届出自体について当事者間に意思の合意があり、ひいて当事者間に、一応、所論法律上の夫婦という身分関係を設定する意思はあつたと認めうる場合であつても、それが、単に他の目的を達するための便法として仮託されたものにすぎないものであつて、前述のように真に夫婦関係の設定を欲する効果意思がなかつた場合には、婚姻はその効力を生じないものと解すべきである。
これを本件についてみるに、原判決(その引用する第一審判決を含む。以下同じ。)の適法に認定するところによれば、本件婚姻の届出に当たり、被上告人と上告人との間には、○美に右両名間の嫡出子としての地位を得させるための便法として婚姻の届出についての意思の合致はあつたが、被上告人には、上告人との間に真に前述のような夫婦関係の設定を欲する効果意思はなかつたというのであるから、右婚姻はその効力を生じないとした原審の判断は正当である。所論引用の判例(最高裁昭和三七年(オ)第二〇三号、同三八年一一月二八日第一小法廷判決、民集一七巻一一号一四六九頁)は、事案を異にし、本件に適切でない。原判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。
よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致で、主文のとおり判決する。(草鹿浅之介 城戸芳彦 色川幸太郎 村上朝一)